本研究の目的は、古典語のラム由来の推量表現形式「ロー」をもつ高知方言に焦点をあて、近年生じている推量表現形式の変化の要因を明らかにすることである。現地にて世代別の文法記述という質的なデータと談話資料による計量的なデータを集め、これを総合的に用いることによって進行中の文法の部分体系の変化を捉える。最終的には、幕末以降の土佐・高知方言の推量表現の変化について研究代表者(橋本(舩木))が積み重ねてきた成果と総合して、長いスパンでの変化の流れを明らかにし、標準語や他方言の推量表現の変化パターンと対照できるようデータを蓄積する。 平成20年度は、老・中・若年層の三世代への臨地面接調査によって、文法記述に必要な基礎情報を収集した。また、インフォーマントとの良好な関係を構築し、次年度以降も調査に協力してくださるとの確約を得た。 三世代に対して、推量表現、確認要求的表現などに用いている形式の意味・機能を調べ、橋本(舩木)がこれまでに明らかにしている幕末以降の高知方言の動向との異同を確認した結果、古典語のム由来の推量表現形式は、動詞・形容詞未然形接続ではどの世代にも全く使われておらず、推量等のモダリティ表現が活用語の終止形接続に完全に統一されていることが確認できた。また、バラエティの関係にある複数の推量表現形式が文法的あるいは談話機能的に違う性質を持つ可能性のあることがわかった。このことについては、今後、談話資料等によって量的な分析を行う予定である。
|