本研究の目的は、古典語のラム由来の推量表現形式「ロー」をもつ高知方言に焦点をあて、近年生じている推量表現形式の変化の要因を明らかにすることである。現地にて世代別の文法記述という質的なデータと談話資料による計量的なデータを集め、これを総合的に用いることによって進行中の文法の部分体系の変化を捉える。最終的には、幕末以降の土佐・高知方言の推量表現の変化について研究代表者(橋本(舩木))が積み重ねてきた成果と総合して、長いスパンでの変化の流れを明らかにし、標準語や他方言の推量表現の変化パターンと対照できるようデータを蓄積する。 平成21年度は、前年度に実施した調査データを補足するための臨地面接調査を実施するとともに、壮年層・老年層と若年層の自然談話を各1時間程度採録し、これを文字化した。現在、この文字化データを用いて、自然談話中の推量表現形式の出現傾向を量的に分析している。なお、平成21年度にはパイロットスタディとして、自然談話の文字化データを用いた分析手法によって移住者の方言切換えを量的に分析した。 バラエティの関係にある複数の推量表現形式は、伝統的高知方言においては前節要素の品詞(活用語)に制限されていたが、現在は文法的あるいは談話機能的に違う性質を持つものとして使い分けられている傾向がみられることがわかってきた。このことには別方言の推量表現形式が流入して言語接触が起こり、これによって推量表現のパラダイムシフトが生じていることが要因と考えられる。これについては談話文字化資料を用いて分析を継続し、複数の推量表現形式が併用される状況から用法が分化していく過程の解明をめざす。
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