本研究の目的は、古典語のラム由来の推量表現形式「ロー」をもつ高知方言に焦点をあて、近年生じている推量表現形式の変化の要因を明らかにすることである。現地にて世代別の文法記述という質的なデータと談話資料による計量的なデータを集め、これを総合的に用いることによって進行中の文法の部分体系の変化を捉える試みをおこなった。 平成23年度には、これまでの調査結果を総合的に分析し、高知方言において生じている推量表現形式および確認要求的表現形式の変化と、これに付随して生じているその他の文法現象についての考察をおこなった。考察を通じて、バラエティの関係にある複数の推量表現形式や確認要求的表現形式が、伝統的高知方言においては前節要素の品詞(活用語)に制限されていたが、現在は文法的あるいは談話機能的に違う性質を持つものとして使い分けられている傾向があること、また若年層にそうした傾向が強いことを確認した。これは、別方言の推量表現形式が流入したことによって推量表現体系にパラダイムシフトが生じていることが関わっていると考えられる。 とりわけ談話データや若年層の用例の分析からは、聞き手に対する情報操作のありかたによって形式を使い分ける顕著な傾向が観察できたが、このことについては当該方言の終助詞を考察に加えるのみならず、他方言において終助詞でない形式が終助詞的に使われていく(文末詞化する)といった用法・機能の変化の類型も視野に入れて、さらに考察を進める必要があると考えている。
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