研究概要 |
本研究は、ヒトという種に固有の言語機能(the faculty of language)の性質を追求するため、wh疑問文の特殊な顕れである寄生空所(parasitic gap)を含む文の派生を明らかにすることを目指したものである。今年度は主に、資料収集、先行研究の検討、および最新の研究動向の調査(関連する学会やワークショップへの参加)を通じて、英語・日本語・中国語における言語資料を収集し、理論的枠組みの構築を目指した。 具体的には、寄生空所の生じる構造的位置(「島」と呼ばれる摘出領域の種類, Ross 1967)によって、線的概念に言及する必要があるように思われる現象が英語で見られることがわかった。この現象に対して、線的概念に言及せずに構造的概念のみに基づく説明を模索し、その成果について国内外の学会・ワークショップで発表した。この結果、言語機能において、島にはその形成のされ方によって下位区分があり(Stepanov 2007)、それが寄生空所の出現の仕方に影響を及ぼすため、寄生空所の認可が音声部門とは独立の部門で行われることがわかった。この知見は、線的概念を音声部門に限定するChomsky(1995)のモデルを支持するものである。 このような調査の結果、英語にはない名詞句削除を許す中国語や、名詞句削除を許すだけでなく、語順も英語とは異なる日本語においても、構造的なレベルにおいて寄生空所が認可されるはずだという理論的見通しがたった。すなわち、個別言語間で、表面的には異なる言語現象を示していたとしても、その根底に共通性が見られるという点で、言語機能がヒトという種に固有であるという主張を支持するものとして意義深い。中国語と日本語における寄生空所の出現環境について整理し、その予測が確かめられるかが、今後の課題である。
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