研究概要 |
hypotaxis>subordinationという一方向性の妥当性を検討した平成20年度の研究成果を受けて,平成21年度はsubordination構造の一種である,引用節を導入する日本語「みたいな」を中心に,「補部節導入形式の文法化」の考察を行った。とりわけ引用機能にみられる語用論的側面に注目した結果,「引用」には大なり小なり「伝達される情報に関して話し手である自分は距離を置く」という含意が含まれていることが確認された。引用機能と責任性回避の相関関係は日本語に限らず,通言語的に観察される。このような一種の「乖離性」はユーモアやアイロニーなど,多彩な二次的語用論機能を生み出す。また,発話という概念とはさほど関係があるようには思われない「みたいな」が引用導入機能を持つようになった契機も,「AとBが類似している」と述べることが,AとB間のズレ(すなわち乖離)を含意しうる点にあったと思われる。心理的乖離はさらに,不適切性,責任性の回避という含みを発生させる。このように,類似性概念に由来する乖離は,話者のさまざまな心的態度を表出しうることが分かった。これは主観化(subjectification)の一例であり,間主観化(inter-subjectification)とも密接な関係にある。物事を直接言及せずに,ズレを残したまま述べる方法はヘッジ(hedge)の一種であるといえるが,引用導入句は従来の先行研究でしばしば指摘されてきたようなネガティブフェイスに配慮するへっじとしてだけでなく,ポジティブフェイスに関わるヘッジとしても機能しうる。このような配慮に基づく話し手と聞き手の関係は,間主観性の問題である。ただし,「みたいな」の場合,ポジティブフェイスに関わるヘッジ・ストラテジーは,ネガティブフェイスに関わるストラテジー同様に,「距離をおくこと(遠距離化)」に還元されうることを示した。以上の研究成果を2009年9月末日脱稿済みの共著にて発表予定である。
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