研究概要 |
研究最終年度にあたる今年度の計画は,平成20年度,21年度の研究成果の融合を図り,コミュニケーションを支配する原理から見た文法化における普遍性という点に注目して,三年間の研究成果をまとめることであった。平成21年度までの研究で,引用節導入機能とsimile概念を表す語彙項目の関係を分析した。その結果,文法化には話し手の心的態度のみならず,聞き手との相互作用が大きな影響を及ぼすことがわかった。以上のように,人間のコミュニケーションの本質が文法化に及ぼす影響は分かったが,ここで新たな疑問が起こる。すなわち,simile概念を表す語彙項目(英語like,日本語「~みたいな」)は,その語彙的意味だけが引用節導入機能への文法化を推し進めたのだろうか。それとも,これらの語彙項目が被引用句を従えるという構文的特徴が,文法化の主駆動力になったのだろうか。史的実例を見てみると,発達の初期の段階では「類似性」という,語彙項目が表す意味に依存する形で機能拡張が起こっているように見える例が目立つが,ある程度文法化が進むと,likeや「~みたいな」の語彙的意味に頼らない例も散見されるようになる。そこで,文法化には語彙的意味が主導する段階と構文的意味が主導する段階があるのではないかと仮説を立て,これを検証すべく,ケーススタディとして英語受動構文の発達を考察した。その結果,受動態の機能発達では,発達初期段階では構文に現れうる動詞の語彙的意味が主な文法化駆動力となっているが,文法化がある程度進むと,さまざまな意味タイプの動詞が現れるため,動詞の語彙的意味の重要性は相対的に低下し,代わって構文としての意味機能が大きな役割を果たしているとの示唆が得られた。その際,動詞の語彙的意味に頼らない,話者の事態のとらえ方(主観化)も,文法化の重要な要因になっていると考えられる。
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