本研究の主目的は、日英語の使役事象を表わす構文の分布上の差異を比較し、その差を生み出す原理を我々の事態把握と概念化の観点から解明することである。その目的を達成するため、該当年度は、日本語の壁塗り構文との比較を視野に英語の所格交替(locative alternation)を扱い、これまであまり注目されなかった事実に着目し、動詞と構文が融合する際にはどのような原理が働くのかを明らかにした。具体的には、*John poured the glass with waterが許されないのに対して、John poured the glass full with waterのように、なぜfullという結果表現を明示すると容認性が改善するのかという問題と、さらには、*John put the glass full with waterのように、fullを付加しても容認性が改善されない場合があるのはなぜか、などの問題を皮切りに、関連する様々な構文を観察し一定の成果を上げることができた。とくに、この研究によって、動詞と構文の意味的ズレがある場合に、どのようにして両者の融合が可能になるのかについて、いくつかの結論を導くことができた。その中でも注目すべきは、「擬似的意味シフト」という概念をもとにした分析である。これは、結果に焦点がある動詞でも、その結果に先立つ行為を(擬似的に)焦点化できるようなタイプとそうでないタイプがあるという事実を表したものである。このことによって、構文と動詞が異なる結果を焦点化しているような場合でも、動詞の意味が擬似的に行為動詞化することによって、別の結果を表す構文と融合できることを自然に説明できるようになった。この研究成果は、「事象の焦点化と擬似的意味シフト」というタイトルの研究論文としてまとめた。 この擬似的意味シフトという概念による分析は、英語の動能構文の成立過程の解明にも応用できることが、研究を進めていく中で明らかになった。John shot at the birdのようなatを含む動能構文は、行為を焦点化する講文であるが、日本語には英語の動能構文に対応する構文が存在しない。この事実から「擬似的意味シフト」という操作が英語の結果動詞に特有に働くものであることが予想される。この観点から動能構文の特徴をまとめたものは、「英語の動能交替現象における事態認知と意味シフト」というタイトルの研究論文として公表された。
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