平成20年度は、心理学実験作成ソフトウェアを用いた知覚実験プログラムの整備を主に行った。東京方言話者に発話させた音節構造が異なる4語をもとに、各語の語末に位置する母音部分の持続時間を0.1倍から2.0倍に伸縮させて母音の長さが異なる複数の刺激音声を作成した。作成した刺激音声から本実験で呈示する音声を選定するため、パーソナルコンピュータを用いた極限法による知覚実験を予備的に実施した。本研究は中国語母語話者を対象としているが、予備実験は中国語母語話者の比較対照となる東京都および神奈川県出身の日本語母語話者約20名に対して行った。予備実験より、日本語母語話者の短母音および長母音の知覚範疇に含まれる刺激音声と、母音の長短判断があいまいになりやすい刺激音声が明らかになり、本実験で呈示する音声を定めることができた。刺激音声選定に至る過程では、母音の長さが長短判断の境目に当たると思われる音声を第一番目に提示したため、母音長の伸長に全く気がつかないという事例が見られた。このことから、母音の長短判断の境界にある音声を知覚実験の最初に呈示することを事前に防ぐことができ、結果として精度の高い知覚実験プログラムの整備が可能となった。予備実験の結果をもとに刺激音声を修正した後、日本語レベルが中級後半程度の中国語母語話者数名に呈示したところ、すベての試行で反応が得られ、刺激音声の呈示範囲が妥当であることが確認された。中国語母語話者には知覚実験で呈示している音声と同様の語を発話させたが、音節構造により発話しやすいものとそうではないものの傾向を見ることもできている。
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