中国語母語話者25名に対して極限法による知覚実験を実施し、日本語母音の長短の知覚範疇を調査した。音節構造が異なる4語それぞれの語末に位置する母音の長さを一定間隔で変化させて複数の刺激音を作成し、被験者に呈示した。その結果、第1番目に流れる刺激音の長短判断に混乱が見られるケースが観察されたことから、本研究の場合、中国語母語話者の日本語長母音の知覚範疇を極限法によって検討を続けるのは困難なことが明らかとなった。これは、日本語非母語話者による母音の長短の知覚範疇を精査するためには、どのような手法を用いるとより適切であるかを示す結果と言えるだろう。 さらに、知覚実験と同様の被験者に対して、4拍語を発話してもらうという産出実験も実施した。4拍の語の中で考えられる音節構造パターンの全てを網羅する15の無意味語を刺激語とした。鹿島・橋本(2000)等を参考に、2拍を一単位、ただし、特殊拍は直前の拍と合わせて一単位として、各単位が一語に占める割合を分析した。比較対照として日本語母語話者にも同様の産出実験を実施した。その結果、中国語母語話の日本語発話の難易は、語の音節構造が影響している可能性が強いことが示された。これまでに行った分析からは、特に、一語の中に特殊拍が一か所だけ含まれる場合、日本語母語話者の産出傾向との差異が大きいという傾向が現れている。このことは、本研究の調査対象者である中国語母語話者が、産出実験で示した刺激語を日本語の拍とは異なる単位で捉えて発話していることを示すものと思われる。よつて、本研究の産出実験のデータは、中国語母語話者がどのような単位で日本語のリズムを捉えているのかを検討する資料となると考える。
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