平成22年度は、4モーラで5つの音節構造すなわちCVCVCVCV、CVCVCVR、CVRCVCV、CVRCVR、CVCVRCV(Rは長母音)から成る無意味語の発話に関し、日本語能力が等しい中国語母語話者15名と日本語母語話者6名の傾向を鹿島・橋本(2000)によるリズム単位を基にして比較検討した。中国語母語話者は、来日後4ヶ月程度の6名と平均で41ヶ月程度滞在している9名に分かれる。長母音を含む音節の発話については、日本滞在期間が短い群と日本語母語話者との間でCVRCVR構造の「たーたー」「たんたー」に異なる傾向が見られた。このことから、日本語による接触機会が十分ではない学習者に対しては、特にCVRCVR構造の長母音発話を重点的に指導する必要が示唆された。日本語母語話者と滞日期間が長い中国語母語話者の場合、自立拍の連続であるCVCVが語中に占める割合よりも、自立拍と長母音から成るCVRの語中割合の方が短くなりがちであった。この結果から、これら二つの群の発話傾向は語の音節構造との関係が深いことが考えられる。従来の研究の多くは長母音の語中位置に着目して、日本語学習者にとっての発話の難易や傾向を論じてきたが、本研究の結果は、語の音節構造も分析の視座に据えた上で、学習者発話を検討すべきであることを示すものと考える。
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