本年度は、研究目的の一つである書記資料の収集として、ブラジルへの移住が開始された1908年〜1920年代ごろまでを対象として行った。日本で発刊された外務省・拓務省等による政府刊行物・報告書、民間の移民会社などによる移住者支援事業に関する書籍・報告書などにより、ブラジルへの移民開始の経緯や当時のブラジル・日本の政治的状況および国内の社会的状況、ブラジル日系移住地が誕生した背景と初期移民の暮らし、移住地内に日本語学校が創設された背景と当時の日本語教育の様子、そして移住先のブラジルで初期移民らが経験した言語接触・言語変容とその背景について考察を行った。研究成果の一部として、東北大学グローバルCOEプログラム国際移動研究部門主催ワークショップ(於 : 東北大学、2009年3月4日)において「ブラジル日系移民社会における言語の接触と変容」をテーマに発表を行った。 また、資料収集に際しては、これまでブラジル日系人が集住するブラジル南東部サンパウロ州に集中して行われていたため、ブラジル北部アマゾン地域へ赴き、北伯地域でも日系人が比較的多く居住するパラー州ベレン市と、アマゾン地域最古の日系移住地トメ・アスー移住地(トメアス郡クアトロボッカス区)において資料収集を行った。ベレン市においては、汎アマゾニア日伯協会の協力のもと、ブラジル北伯地域の日系人社会全般に関する資料を、北伯日本語普及センターおよびベレン市内の日本語学校の協力のもと、北伯地域の日本語教育についての資料収集を行った。また、トメ・アスー移住地においては、トメアスー文化農業振興協会およびトメアスー日本語学校の協力のもと資料収集を行った。北伯地域は南伯地域よりも移住開始時期が少し遅れること、また、都市の規模や日系人口規模の違い、ブラジル最大の都市であるサンパウロ市を中心とする南伯との地理的距離など、ブラジルの日本語教育を論じる際にも、このような歴史的社会的地理的背景を考慮する必要性のあることが明らかとなった。
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