研究概要 |
本年度は主に1950年代後半~1970年代までを対象として資料収集を行った。この時期は、第二次世界大戦が終結し、日本の敗戦による「勝ち組負け組」抗争という混乱期を経た後、祖国への帰国を諦め、ブラジルの地に永住を決意し、「ブラジルの日本人」としての新たなアイデンティティを析出していく時期である。戦前には「在伯同邦」などと呼んでいた日系社会を次第に「コロニア」と呼び始め、「日伯混合語」などと呼んでいたポルトガル語混じりの日系人の日本語を「コロニア語」と呼び、日本の日本語とは違うブラジルの日本語の独自性を見出し、その存在意義を積極的に認めていった。このような日系人の意識の変化は、1960年代に発刊された「コロニア版教科書」と呼ばれる日系子弟のための日本語教科書に体現されることとなった。だが、70年代に移民の時代が終焉を迎えると、世代交代、職業の多様化、都市部への人口集中、高学歴化、非日系との結婚など、日系人の生活も大きく様変わりし、日本語からポルトガル語へ大きく言語シフトしていく中で、新たな日系コロニアの在り方を模索する必要に迫られ、それとともに従来の「日系子弟のための日本語教育」が揺らぎ始めていった。このようなブラジルにおける日系社会と日本語の位置づけの歴史的変遷について、「ブラジルの日系社会と日本語:南米日系社会における日本語の変容」(広島・方言研究会,2011年3月5日)として研究発表を行った。また、戦前移民の多いブラジルと対照的なフィールドとして、戦後移民が多くを占めるパラグアイにおいて行った調査の結果は、「パラグアイ日系社会におけるアクセントの継承と変容」(日本方言研究会第90回研究発表会,2010年5月28日:『社会言語科学』13(2)に掲載)、「パラグアイ日系社会における言語継承と言語生活の背景」(長野・言語文化研究会,2011年2月12日)として発表を行った。
|