研究概要 |
第一言語および第二言語としての英語によるライティングに現れる感情表現(愛情表現と哀悼表現)における類似点と相違点を観測し、感情表現の習得度とTOEICスコアの相関関係を検討するため、生成実験を実施した。英語母語話者12名と日本人英語学習者11名を被験者とし、同じ条件下でラブレターとお悔やみの手紙の2種類を書かせ比較した。日本人被験者については、2種類の手紙を日本語と英語で書いた。生成された英文手紙に関して、Hunt(1965)の考案したT-Unitを用いて文構造の熟達度を測定し、手紙のパターンを分析した。また、ライティング指導の経験を持つ英語教師5名(日本人2名、カナダ人3名)を評価者とし、Jacobs, et al. (1981)によるESL Composition Profileを用いて、日本人被験者による手紙を内容、構成、語彙、言語使用、機械的技術の5つの側面から評価.採点した。 日本人英語学習者のTOEICスコアとESL Composition Profileの評価結果には高い相関関係が示され、TOEICで高得点を獲得している学習者はライティング能力に優れていることが示唆された。高い相関関係はT-Unit内の単語数とESL Composition Profileの得点の間にも観測され、言語的に複雑な英文を書くことができる学習者は、高いライティング能力を持っていることが示された。また、英語母語話者による手紙には日本人学習者による手紙に観察されるパターンとは異なるパターンが観測された。特に感情表現に関して、英語母語話者は感嘆文や比較級・最上級を使った文を用いる傾向が示されたが、日本人学習者にはこの傾向がほとんど観測されなかった。 今後は、日本人英語学習者の英文手紙と日本語による手紙を比較し、第二言語の生成能力に対する第一言語の関与を感情表現の習得という観点から検討することを予定している。また、スピーキングにおける生成実験を実施し、感情的プロソディの音響特性とその習得過程を観測することにより、ライティング能力とスピーキング能力との関係を明確にすることも計画している。
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