第一言語話よび第二言語としての英語によるスピーキングに現れる感情的プロソディにおける類似点と相違点を観測するため、米語母語話者と日本人英語学習者を被験者として生成実験を実施した。感情表現の中でも愛情表現と哀悼表現に着目し、平成20年度のライティング実験において英語母語話者によって産出された英文手紙を被験者に読ませ、音声資料とした。日本人被験者として海外滞在経験のない大学生、米国人被験者として英語教材の録音を担当するプロのナレーターを用意した。全被験者の音声資料において、音声波形、スペクトログラム、イントネーションカーブを作成し、米語母語話者が強調している語・節を分析語として特定した。分析語は、ブースター表現、語彙表現、依頼表現という3種類の表現に分類し、ピッチの高低差、持続時間、強度を計測した。さらに英語母語話者による聴取評価を実施し、日本人の英語音声における単音、プロソディ、感情表現、全体的印象という4つの側面を5段階で評価した。聴取評価においてもっとも高い評価を得た日本人英語学習者の感情的プロソディを観察したところ、ピッチの高低差が米語母語話者よりも大きかった。言語習得の段階においては、過度にピッチを使うことが豊かな感情表現への鍵となることが示唆された。 上記の実験に加え、昨年度のライティング実験において産出された英文手紙を、機能言語学の枠組みから提案されたMartin & White(2005)のアプレイザル理論を用いて分析し、感情表現の言語特性を観測することを試みた。日本人被験者の英文手紙には米語母語話者の手紙に観察されるものとは異なる言語的特徴が観測され、第二言語による愛情表現と哀悼表現の言語特性が示唆された。
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