筆者は、これまで仙台藩伊達家を主たる対象に、禁字の問題、官途・受領名の問題、呼び名の問題の3つの観点から名前研究を進めてきた。本研究では、まず、仙台藩に見られるような武家の名前をめぐる諸法令の存在を全国規模で確認し、その概要把握を行うとともに(課題(1))、出来るだけ多くの大名家等について個別具体的な検討を行うことを最終的な課題(課題(2))としており、2年目にあたる平成21年度は、専ら課題(1)に関する作業を行った。その結果、禁字の問題については、新たに、掛川藩、島原藩、対馬藩、高鍋藩、中津藩、岩村藩、忍藩、亀山藩でも禁字政策が見られることが判明した。また、官途・受領名の問題に関して、各藩における法令や分限帳・検地帳等を調査したところ、意外にも藩士たちの名および領民たちの名に官途・受領名や下司なしの省名・寮名・国名が殆どみられない藩もあり、これまでに調べた藩(東北各地に存在した藩など)との違いが見られた。ただし、例えば尼崎藩では、在地に出された倹約令の中に「祝言・官途・元服・子ひろめ・屋移之祝儀」に関する条項が見られ、同藩の領地では人生儀礼の一環として民衆の世界で行われた官途成が江戸時代まで引き続き行われ、その祝宴の場が規制の対象と成っていることがわかる。これは各地の宮座を中心に江戸期以前から行われていた烏帽子成・官途成とも関連する問題であり、官途成の儀式で命名される名前が具体的にどのような名前であるのかも含め、これまでとは違ったアプローチの仕方が必要である。最後に、呼び名の問題については、藩主家成員に対する特定呼称が存在するという点で各藩に共通しているが、中でも鳥羽藩、掛川藩、高鍋藩で仙台藩伊達家同様の呼称規定が見られることがわかった。ただし、呼称規定と家内秩序との関係性について考察を深めることができず、今後の課題である。
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