本年度においては、第一に、16世紀前半期に派遣された遣明船に関わるまとまった史料群である「策彦入明記録及送行書画類」の撮影を完了し、入明記研究の基盤を整えることができた。第二に15世紀半ばに派遣された宝徳度遣明船についての記録である「笑雲瑞新入明記」の検討を深め、このうち現存する諸本の性格と伝来過程についての考察を「『笑雲瑞訴入明記』の書誌学的研究」と題し、中国杭州市で行なわれた国際シンポジウムで報告した。またこの際、杭州市・舟山市の現地調査を併せて実施し、この成果によって文意が不明であった箇所を修正することが出来た。さらに宝徳度遣明船に関わる史料を数点、収集・翻刻し、「笑雲瑞訴入明記」本体の解題・翻刻・注釈などと合わせて整理して「笑雲瑞訴入明記」出版のための原稿を調えた。細かい修正などを施し、来年度の入稿を目指す予定である。第三に、「笑雲瑞訴入明記」と極めて関係が深い「善隣国宝記」についての検討を行ない、現存最古と予測されていたケンブリッジ大学所蔵の「善隣国宝記」の原本調査を行なった。「善隣国宝記」は室町幕府の外交顧問が作成した外交文書集で、「笑雲瑞訴入明記」はこの付録として伝来したものと考えられている。ただし結論から言えば、ケンブリッジ大学所蔵本は中世末期の形態はとどめているものの、写本としては近世を遡るものではなく、従来の認識と異なり現存最古とは言えないものであることが判明した。またこの調査により現存の「善隣国宝記」には「笑雲瑞訴入明記」を伴うものは一つもないことが確定された。第四に大内氏の京都における活動基盤分析の一環として、奉公衆の大内氏について検討し、これを「加賀の大内氏について」という論文にまとめ公表した。
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