今年度においては、第一に、昨年度の研究成果により史料群全体の撮影を終えた、京都国立博物館寄託・妙智院所蔵「策彦入明記録及送行書画類」について、写真の焼付整理を終え「妙智院史料」と題して所属機関の図書室に入架し、入明紀研究が広く行なわれるための基盤を整えた。この際、従来から所属機関に所蔵される謄写本・影写本・模写・写真等との関係が明確になるような形でデータを整理し、検索の便を図った(所属機関のデータベースで検索可能、または東京大学史料編纂所報44号、66~68頁参照)。第二に、15世紀半ばに派遣された宝徳度遣明船の記録である「笑雲瑞〓入明記」について、翻刻・注釈を完成させ、解題・参考史料・地図類を付して入稿した。『笑雲入明記-日本僧の見た明代中国』と題し、平凡社東洋文庫から来年度刊行予定である。この際、「策彦入明記録及送行書画類」のうち、「駅程録」・「沿途水駅」を翻刻して、「笑雲瑞〓入明記」の記述とのつきあわせ・検討を行ない、「駅程録」については『笑雲入明記』に参考史料として収めた。この二点の史料の翻刻作業に当たっては大学院生の助力を得た。第三に、宝徳度遣明船の関連史料を収集する過程で、同時代貴族の未翻刻日記に関連記算があるのを見出し、その日記自体の翻刻に着手した。これは共同作業として行ない、成果の一部を連名で「<史料紹介>綱光公記」として所属機関の研究紀要に報告した。第四に、15世紀半ばの大内氏の動向を対外情勢と絡めて検討し、この成果を「大内教幸考」と題して、史学会大会で報告した。第五に、「策彦入明記録及送行書画類」の史料群としての性格を解明する一つの試みとして「謙齋南渡集」を翻刻し、検討作業に着手した。この翻刻作業に当たっては大学院生の助力を得た。
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