今年度においては、第一に、15世紀半ばの宝徳度遣明船の記録である笑雲瑞〓入明詔について、『笑雲入明記-日本僧の見た明代中国』と題し、村井章介・須田牧子共編として平凡社東洋文庫の一冊として刊行した。全359頁、読み下し・注釈編170頁、諸本との対校成果を反映させた原文編64頁、参考資料編70頁に、須田による解題、村井氏による解説を付している。注釈編の注の数は734に及び、現地踏査の成果を織り込み、写真・図版も多く収録することができた。この種の本の常として完璧はありえず、訂正個所もすでに多く見つかっているが、注釈本の刊行は、入明記としては初めてのことであり、今後の研究の叩き台となる、意義ある成果と自負している。第二に、大内氏研究を主として日朝関係の視点からまとめた単著『中世日朝関係と大内氏』を東京大学出版会から刊行した。これにより大内氏の日朝関係の全体像を整理・通観できるようになり、大内氏のもう一つの外交関係、日明関係を見通していく基礎的な条件を整えることができた。第三に、宝徳度遣明船の関連史料を収集する過程でその重要性を見出し、去年度より始めた、15世紀半ばの貴族の日記の翻刻を、今年度も継続して行ない、成果の一部を連名で「<史料紹介>綱光公記」として所属機関の研究紀要に報告した。第四に入明記と入明記を取り巻く史料群の性格を明らかにしていくための基盤作成の一環として、業者に委託して史料の電子データ化を進めた。これは原本と対校してより良質なテキストを作っていくため、諸写本の系統関係を確定していくための基礎作業という位置づけとなる。今年度はこれを踏まえて、「謙斎南遊集」と「策彦和尚詩集」との相互関連を検討する作業に着手した。
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