研究概要 |
今年度においては第一に、室町政権および大内氏の日明関係への関与の状況とその特質について、本研究で得られた知見をまとめることに精力を注いだ。その成果として下記の三本の論文を執筆した。(1)「『蔭涼軒日録』-室町殿外交の舞台裏」(刊行済)、(2)「大内氏の外交と室町政権」(刊行済)、(3)「(邦題)遣明使節僧の中国体験」(2012年5,月刊行予定、英文)。(1)では室町殿の外交的特質を蔭涼軒に引き付けて論じ、(2)では大内氏の日明関係を室町政権との関係を重視しながら概観、(3)は14-16世紀日明関係の概観をしたうえで、入明記を中心とした史料群の紹介とそこから読み取れる記主たちの異文化体験の特質を論じたもので、英語圏へ当該分野の紹介をも兼ねている。いずれも本研究でめざしていたものであり、最終年度に刊行するにふさわしい内容となっている。 第二に、「策彦入明記録及送行書画類」の史料群および関連史料のテキストデータ化を今年度も進め、「策彦入明記録及送行書画類」の史料群の8割程度および『異国出契』『嘉靖公牘集』などについてこれを完了した。前者の一部についてはすでに試験的に関係者の間で共有しており、当該分野の発展に寄与しているものと思われる。 第三に、『謙斎南遊集』(16世紀の遣明副使・正使を務めた策彦周良が中国で詠んだ漢詩を集めた文集)については『初渡集』『再渡集』との突合・検討を完了し、その成果の一部は(3)の論文に盛り込んだ。但し『策彦和尚詩集』との関係性についての検討は、詩集が大部なこともあってまだ半ばである。 第四に、『倭寇図巻』を素材として16世紀半ば以降の「非合法」的な遣明船についての検討も進め、本研究課題で追究したような「国家間外交」の体裁を一応はとっている関係性のあり方との比較のための参照軸の形成に意を払った。 第五に、宝徳度遣明船関連の記事を含んでいた15世紀半ばの貴族の日記の翻刻を今年も行ない、成果の一部を連名で発表した。
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