本年度は調査・収集済の史料について内容を分析し、以下の1~3に示した論文執筆や市民向けの公開講座での講演をおこなった。 1.郡公報記事の分析 (1)明治期の度会郡公報について、掲載記事内容の特徴を検討して学内紀要に論文を発表した。掲載記事のうち「通報」は、公報への掲載が選択的であり、上級官庁からの通牒の「通報」であっても、掲載の有無は他郡との相違が見られた。各郡で求められる情報の違い、さらに言えば度会郡政の独自性を指摘できる。また度会郡が行政視察員費を新設した明治44年以降掲載記事件数が増加し、郡公報の情報量が増加したのみならず、郡公報の重要性が増したことも指摘した。 (2)(1)からは度会郡単位での地域意識が形成される萌芽を指摘できる。行政ルートを通じた郡レヴェルの地域意識の形成・持続を解明する点で重要である。 2.地域団体による活動の解明 「神苑会の活動と明治の宇治山田」、と題して、明治中後期に神宮の神苑整備や徴古館建設・道路建設に尽力した、神苑会という地域団体の活動を取り上げ、宇治山田の地域形成に果たした役割について、市民向けの公開講座で講演した。神苑会の活動によって宇治山田=神都という地域意識は実体あるものとなったが、これが宇治山田への市制施行を経て、度会郡を単位とする一体性・地域意識の持続に与えた影響を今後考えたい。なお本講演をもとにした論文を執筆済で、23年度に刊行予定である。 6.その他 田中正造日記の記述に見える公共・公益という言葉や、地方自治をキーワードにして、田中正造の地域意識について言及した論文を執筆し、23年度に刊行予定である。
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