前年度までに収集した幕臣の履歴史料、中でも人事異動の度ごとに幕臣から江戸幕府に正式に提出された「由緒書」(先祖から本人まで代々の当主の履歴をまとめたもの)や「明細短冊」(本人のみの履歴書)を用いて、第1課題(幕臣履歴史料を用いた任用形式変化の数量的考察)のためのデータ整理・分析作業をおこなった。すなわち、これら履歴史料から各幕臣が世代交代によって任用された際、あるいは新規に任用された際、どのような名目(譜代=代々任用・一代抱=一世代任用・仮抱=員数外任用・御雇=臨時任用など)で任用されたか、その形式を抽出して分類・数量化し、時代別の動向をまとめた。これによって、これまで漠然と世襲的任用(譜代)が主流とされてきた幕府の人員には、実は非世襲的任用(一代抱・仮抱・御雇)による人員が多数ふくまれ、これら非世襲的に任用された人員を次第に拡充することで、幕府は社会経済の変化に対応してきていた点を分析した。 また、前年度までに収集してきた第2課題(幕臣任用形式の変化と近世人事制度の意識変化)に関する史料を総括して、近代雇用システムへの展望について発表などをおこなった。とくに、時代を経るにしたがって仮抱=員数外任用や御雇=臨時任用が拡充されていったことに対して、譜代=代々任用の幕臣たちがどのような意識を抱いていたかについて分析した.そして、かれら代々任用の幕臣たちこそむしろ、人員不足・業務過多の中、仮抱や御雇を歓迎し、幕府に非世襲的任用に基づく人員の拡充を要請してきた様子を明らかにした。
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