本研究では、第一に、北東北諸藩(具体的には、弘前藩・南部藩・八戸藩の三藩)の藩庁日記に登場する松前・蝦夷地関係記事を網羅的・体系的に把握し、データベース化を行うことを第一の目的としている。そして、第二に、その作業を通じて、近世期の松前・蝦夷地をめぐる政治的・社会的・経済的・文化的な状況に関して、新たな事実と論点を提示することも目的としている。特に、近世期の北海道を対象とする研究、特に近世中期までの時期を扱った研究においては、松前藩政に関わる文書や藩領域内の地方文書の不足に基因する史料的な限界が指摘されており、本研究を通じて把握する資料によって、その「限界」が多少なりとも克服されることが期待される。 平成20年度は、弘前藩の藩庁日記である『弘前藩国日記』(青森県立図書館所蔵マイクロフィルム版を利用。原本所蔵は弘前市立弘前図書館)の調査を重点的に実施した。具体的な調査内容は、下記の通りである。1、『弘前藩国日記』は、寛文元年(1661)から元治元年(1864)にかけて3300冊余が現存しているが、平成20年度は、享保9年(1724)8月から寛延4年(1751)2月までの合計670冊を調査し、松前・蝦夷地関係記事を複写した。本研究を始めるまでの準備時点で1797冊余の調査を終えており、『弘前藩国日記』については、合計2467冊、約75%を終えている。2、具体的な内容としては、近世初期より弘前藩から「松前買物役」を命じられて定期的に松前城下に赴き、幕府への献上品の購入や情報収集に携わった弘前や青森の商人に関わる記事や、松前藩側から弘前藩側に提供されたラッコ皮の産出・流通・利用に関わる記事、などを確認した。3、『弘前藩国日記』にある松前・蝦夷地関係記事の周辺史料として、北海道立図書館、北海道大学附属図書館、北海道立文書館、函館市中央図書館が所蔵する弘前藩関係史料の調査を実施した。
|