研究概要 |
本研究は,全国の鉱山絵巻についてその分類や年代特定を試みながら,鉱山技術と鉱山絵巻作成の伝播・交流を体系的に明らかにし,それらを近世日本鉱山史全体のなかに位置づけようとするものである. 本年度は,東京大学,国立歴史民俗博物館,岩手大学,岩手県立博物館,石川県立歴史博物館,魚津市教育委員会等が所蔵する絵巻原史料16点を調査した.また写真等で4点の絵巻史料のデータを入手し,計20点の構成・内容等を分析した. この結果,各地で確認される鉱山絵巻は,各鉱山の特色を示しながらも,展開・構図に強い類似性が確認された.とりわけ,越中松倉金山絵巻として伝えられる絵巻は,明らかに佐渡金銀山絵巻の展開・構図をモチーフとしたものであることが確認された.ここから,各地の鉱山絵巻の成立そのものも,各種鉱山技術同様に,石見や佐渡といった先進鉱山の絵巻を手本として描かれるようになった可能性を示すことができた.特に佐渡金銀山絵巻は100点以上の存在が知られ,数量や質において他の鉱山のそれを圧倒しているため,佐渡金銀山絵巻を軸とした比較検討が有効であることが確認できた. また,文献調査を併行し,調査絵巻に描かれる諸技術(坑内の排水器具等)の導入年代等を調査し,鉱山間の技術の伝播・交流や絵巻作成年代等について検討を行った.
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