本研究は、全国の鉱山絵巻についてその分類や年代特定を試みながら、鉱山技術と鉱山絵巻作成の伝播・交流を体系的に明らかにし、それらを近世日本鉱山史全体のなかに位置づけようとするものである。 本年度は、新潟大学、京都府立総合資料館、個人等が所蔵する絵巻原史料16点を調査した。また写真等で2点の絵巻史料のデータを入手し、計18点の構成・内容等を分析した。その内訳は、佐渡金銀山絵巻15点、石見銀山絵巻2点、阿仁銅山絵巻1点である。 これまで、日本の主要鉱山に確認される鉱山絵巻の展開・構図に強い類似性があることをみてきたが、今年度は佐渡金銀山絵巻と石見銀山絵巻の比較を中心に検討した。両絵巻はそれぞれの鉱山稼業の実態や地域性を示しながらも構成・描写内容が非常に類似している部分を具体的に確認した。佐渡金銀山絵巻の分類指標を応用し、製作年代を検討したところ、佐渡金銀山絵巻の成立(1730年代後半頃か)が先行し、石見銀山絵巻の成立(19世紀初期頃か)に影響を与えた可能性が高いことを確認した。佐渡金銀山絵巻は国内外に100点以上の所在が確認されているのに対し、石見銀山を含む他の鉱山の絵巻は、それぞれ10点に満たない数しか知られていない。このことからも、江戸時代に全国の鉱山の中心的存在であった佐渡金銀山が、鉱山技術のみでなく鉱山絵巻製作にあたっても他鉱山に影響を与えた可能性が高い。富山県の松倉金山絵巻や山口県の一ノ坂銀山絵巻も佐渡金銀山絵巻にならったものであった。
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