本年度は、6月に史料調査と語学の習得を目的としてヴェトナム・ハノイに2週間滞在し、ハンノム研究院とハノイ国家大学でヴェトナム地方志・燕行録等の調査を行った。明清時代の中越関係に関する新史料という意味では今回の調査で思ったような成果を上げることはできなかったが、ハノイの若手研究者と知り合って彼らと知見を交換することで、中越関係やヴェトナム文化に関する研究状況について一定の情報を入手することができた。また一方、これまで行ってきた作業から、中国とヴェトナムの国境周辺ではタイ系の言語を話す人々が重要な政治的・社会的な地位を占めていたことがわかってきた。4月に史学研究会例会にて明代広西の「〓狸」と土司に関する報告を行い、年度内に『史林』の民族特集号に論説を発表した。この論文は直接中越関係を扱うものではないが、両国国境地帯の在地社会を対象としており、本科研の成果の一つと位置づけられる。3月には広西チワン族自治区に10日間滞在し、民族大学や社会科学院の研究者から広西における中越関係・壮族文化に関する研究状況に関して最新の情報を収集するとともに、中越国境地帯を踏査し、両国国境をまたいで生活する人々の現状を実地に観察することができた。また、今年度の成果として、23年4月にハワイのホノルルで行われたAssociation for Asian Studiesの大会において16世紀の中越関係と国境貿易に関する報告を行う。
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