本年度は、戦国文字と記録媒体の基礎的研究の初年度として、趙国兵器(戦国趙において製造された青銅兵器)の調査をおこなった。上海博物館は戦国青銅兵器を多数所蔵しており、とりわけ趙国兵器のコレクションは貴重である。私は2008年8月26日に同館において調査を実施し、その資料群が真器であることを確認し、また同時に近年刊行された『殷周金文集成(修訂増補本)』の意義を再確認することとなった。当該調査の詳細については、調査報告としてまとめたため、次年度の本欄において紹介する予定である。 10月11日・12日、招聘を受けて中国・長春市の吉林大学を訪問し、中国古文字研究会成立30周年国際学術研討会に参加した。本会議には80名をこえる研究者が集い、中国古文字学に関する専門的な議論がかわされた。私は「再論三晋"冶"字」と題する報告をおこない、三晋兵器銘文中に見られる「冶」字を網羅的に集成し、字形の分類と国別特色を論じた。会議の概要については、すでに『中国出土資料学会会報』39号に紹介したのでそちらもご参照願いたい。本会議には戦国青銅器銘文を専門的に研究する者が一同に会した。長春・北京・上海・香港・台湾などから専門家が集まり、かつて拙著刊行時に展望した戦国青銅兵器研究の国際的なネットワークが姿をあらわした。戦国青銅兵器の研究は比較的新しい研究領域であり、また若手の参入が見られる分野であり、こうした国際交流の場がもたれたこと自体、意義深いといえる。 12月下旬には当初最終年度に予定していた台湾・中央研究院の訪問を前倒しで実施した。金文工作室では現在計画中のデータベースなどについて紹介を受け、自身の戦国文字研究をどのように進めるか、そしてどのように差別化をはかるか考えさせられる機会となった。 そのほか、7月には戦国史像の再構築に関して私見をまとめ、12月には戦国韓の権力構造について文献史料と出土資料を統合する論考を発表した。
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