本研究では近代中国の古都・長安における文物保護の動きを『長安史蹟の研究』を著した足立喜六をめぐる様々な資料を通じて見ることが目的である。(1)足立の撮影した古写真と現代の遺跡の比較、(2)碑林の博物館化を通じて見た近代中国の政治権力と文化政策、(3)外国人による西安の文物の海外流出と現在の所蔵状況(米国・ペンシルバニア大学博物館、仏国・ギメ美術館)など様々な観点からの調査をおこなった。外国人が西安を訪れることによって発生した大秦景教流行中国碑流出未遂事件や唐太宗六駿流出事件などを通じて、一地方都市となっていた西安の文物に光があてられたが、複数の政治勢力が存在していた民国期においては、別々に文物保護を行っていたため、1944年なりようやく文物保護の拠点たる博物館が完成したことが判明した。なお、本研究を通じて、足立喜六氏遺品資料の調査が可能となったため、さらなる研究の深化が期待できる。
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