研究概要 |
平成20年度は, スペインおよびフランス出張時に蒐集した文書群の翻刻・データベース化を進めながら, それに基づく専門的な実証研究を手がけてきた。具体的な成果は下記のとおりである。 1. 中世西欧封建社会の基礎細胞をなすとされる城主支配圏(シャテルニー)とそれを地誌的に具現化する城塞集落の形成(インカステラメント)が, アンダルスと対峙し, その征服と入植をつうじて高い空間的・社会的流動性がたえず再生産されたことにより本格的に達成されなかったと考えられてきたスペイン北部が, じつは城塞を核とする空間の極度の細分化をいち早く達成した先進地帯にほかならなかったことを, 紀元千年前後の「辺境」にあたるエブロ川流域の史料所見を中心的な材料として具体的に明らかにするとともに, ここで析出された所見を, 南フランスを含む地中海諸地域の封建化のリズムを理解するうえで有用なモデルになりうるものとして提示した。 2. オリジナルであれコピーであれ, 歴史研究の基礎をなす文書の所蔵・伝来形態そのものに一定のバイアスがかかっていることを示すべく, 例外的にオリジナルが豊富に所蔵されるスペイン北部カタルーニャ地方のウルジェイ司教座聖堂教会文書群を主たる検討の対象として取り上げ, これを生成論的に検討することにより, 表面上司教座が法行為の主体となっていない俗人文書群の伝来が, 司教座と同参事会員を輩出する地域エリート家門との密な社会関係のうえに成り立っていたことを明らかにした。
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