平成21年度は、スペイン出張時に蒐集した約500点の文書群の翻刻ならびにデータベース化を進めながら、その成果に基づく専門的な実証研究を手がけた。具体的な成果は下記のとおりである。 1.中世西欧封建社会の基礎細胞をなす城主支配圏と、それを地誌的に実体化する城塞集落の形成が、アンダルスと対峙し、高い空間的・社会的流動性がたえず再生産されたために本格的に達成されなかったと想定されてきたスペイン北部が、じつは城塞を核とする空間の極度の細分化に裏打ちされた先進地具体的な材料として明らかにするとともに、ここで抽出された所見を、「辺境」概念そのものの見直しと並んで、地中海諸地域全体の封建社会形成のリズムを理解する有用なモデルになりうるものとしてあらためて提示した。 2.歴史研究基礎をなす文書の伝来形態そのものが複雑記憶の管理の所産にほかならないことを明らかにすべく、あえてオリジナル文書が豊富に伝来するスペイン北部カタルーニャのウルジェイ司教座聖堂教会文書を検討の対象としてとりあげ、それらを生成論的に分析することにより、司教座そのものが法行為に関与していない俗人文書の多数の伝来が、司教座と同参事会員を輩出する地域エリートとの密な社会関係のうえに成り立っていたことを実証的にあとづけた。
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