本年度は、これまでに収集したドイツ・フライブルク連邦軍事文書館およびドイツ外務省政治文書館の関連史料の分析に加えて、夏に中国・青島での現地調査を行い、また研究成果の公表のための準備を進めた。この一連の調査・分析の過程で、日独戦争時にドイツ総督府がいかに植民地統治下の現地社会を戦争に動員したかを具体的に明らかにすることができた。また、現地社会からの「協力」なくして、戦争遂行が不可能であったことを総督府自体も十分に認識していた。日独戦争は、植民地統治下の現地住民の社会を戦場化するものであり、まさに「日独戦争」は植民地戦争として扱われるべき歴史的出来事であったことが明らかになったと考えている。 本年度に行った研究活動は以下のとおりである。まず、4月に津田塾大学国際関係研究所において研究発表を行い、さまざまな分野の研究者より助言を得た。さらに、8月には歴史問題研究所および慶應義塾大学東アジア研究所共催シンポジウムにて、アジア・太平洋戦争期の青島経済について発表する機会を得て、本研究を長期的な視点から理解することができた。また、9月の青島現地調査では、青島市梢案館を訪れ、日独戦争時の中国人住民被害についての同時代資料の目録を調査した。11月には、韓国ソウルの漢陽大学にて開催された国際ワークショップ"Everyday Coloniality"では、本研究プロジェクトのこれまでの成果を発表し、ワークショップ参加者から多くの刺激的なコメントが寄せられた。翌年1月には、西洋近現代史研究会例会にて、本研究テーマの全体に関わる植民地戦争論の枠組みを考察した発表を行う機会を得た。最後に、3月末に本科研での研究成果に終章で関係する単著を東京大学出版会より刊行し、また収集した史料の一部を扱った史料紹介を『近代中国研究彙報』にて発表した。来年度には、日本での学会発表とその後の学術雑誌での研究成果の公表を予定している。
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