研究概要 |
本年度では、「年金」としての証券や、年金獲得手段としての証券投資の実態をふまえ、それらがインフラストラクチャの整備といかなる関係を取り結んでいたのか、また、そのさい啓蒙主義的な思潮や実践がどのような機能を果たしたのかについて、考察を進めた。具体的には、ミドルセクス州の懲治院建設、グロスターシアにおける公設市場の整備、ヴラスゴウにおけるホテル、コーヒーハウス、図書館建設、ハルにおける街路整備,ロンドンの橋梁建設の事例をとりあげた。また、ジョン・シンンクレアによる農業プロジェクトの事例や、アイルランドの都市改良事業、合衆国ボストンでのホテル建設などの事例を詳細に検討し、これらの動きがイングランドにとどまらず大西洋のイギリス文化圏に普遍的に見出されることも示した。さらに、こうした公共的なフロジェクトによって発行された債券は、通常「トンチン年金」の形態をとったこと,終身年金の価格算出のために、啓蒙の科学的な学知である統計学や確率論と実践的に結びついていたこと、啓蒙の動きと評券による年金獲得が、コンドルセに代表されるように、ヨーロッパ的な広がりをもうていたととが判明した。このように「投資社会」・「公共的プロジェクト」・「啓蒙」の三位一体の関係を明らかにできたことが成果として挙げられる。
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