本研究課題に関して平成20年度に実施した研究は、主に以下の2つの成果をもたらした。1つ目は、近世フランスの大市都市リヨンに滞在した「外国人」に関する調査である。現代の民族的対立や都市問題の深刻化を背景にして、都市における外国人研究は近年ますます盛んになってきているが、本研究が対象とする都市リヨンは16世紀に特にイタリア諸都市からの移住者を多く受け入れていた。史料としては、主にローヌ県文書館のセネシャル関係文書とリヨン財務局関係文書に収められていた帰化状および帰化状取得のための請願書を分析して、リヨンで帰化した計256人の外国人の実態を精査した。それに加え、外国人の出身地別分布や同郷団の形成とその役割、帰化に対する態度、都市の産業との関わり、そして外国人の宗教生活や慈善活動について検討し、その成果を「関西フランス史研究会」(7月12日開催)において発表した。 2つ目の成果は、第25回倫理創成研究会シンポジウム「共生の人文学」(12月21日開催)で「近世フランスの社会において「他者」を受容すること」と題する発表を行い、現在原稿を寄稿中である。本発表は、近世フランス都市社会における「他者」概念を考察する際の基礎的研究となるものであり、コミュニティにおける他者の受容と排除、特に宗教的寛容と不寛容に関して、フランスの宗教戦争とナント王令(1598年)の歴史的意義をめぐる政治的・思想的論議を整理し、歴史解釈上の問題点を提示した。これは、国内外の文献を再検討し、近世西ヨーロッパ都市における「外国人」「移民」「宗派共存」に関する理論的な考察を行うという、研究計画の第一段階に相当する。
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