研究概要 |
本年度は、以下2つの問題に焦点を絞って研究を行い、次のような新たな知見を得た。 1, 近世リヨンにおける他者受容と共生の問題を考察するに際して、まず外国人同郷団の存在に注目した。16世紀にはフィレンツェ、ルッカ、ジェノヴァ、ミラノ同郷団が特権と自律性を確保しており、史料調査の結果、フィレンツェ同郷団は50項目からなる固有の規約を保持していたことが判明した。その概要は、リヨン市当局の出す諸条例に従うことが最初に明記されながらも、同郷団代表が市参事会に出席できるとする権利を主張したり、同郷団員の紛争解決は、都市にある裁判所等ではなく同郷団内で仲裁がはかられるべきなどという、リヨンにおけるフィレンツェ人固有の優遇が示されていた。ただし、それはリヨン市民に対してというよりよりも、むしろ他の同郷団に対してフィレンツェ人の特別な地位を明示するものであったと思われる。 2, 他方で、外国人は一見閉鎖的な同郷団に留まっていただけではない。近世における「帰化」とはなにか。フランスでは外国人が財産を残して死去した場合、その相続権は国王にあるとする遺産没収権(オベヌ)が定められており、死後自らの子弟に財産を相続するには帰化しなければならなかった。しかし本当の意味において居住社会に「同化」するためには、都市の市民権が必要であったと思われる。帰化と市民権の関係は極めて複雑であり、様々な事例が存在している。ローヌ県文書館のセネシャル関係文書や、帰化状取得のために書かれた請願書を調査・整理して、当該期の外国人は、いかなる場合に帰化や市民権を取得するのか、または帰国、外国人のまま没するのか、その他どのような状況に応じてどのような選択があり得たのか、分析を進めているところである。 兄弟間で選択が異なっていることから、家系戦略もその背景に見え隠れしている。
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