本研究は、近現代の政治的主流を為す知性主義と対決したカトリシズム勢力に注目し、三つの対象を選択して実証的に探究するものである。第一は、プロイセン王国の貴族院議員、ポーゼン城代で、教皇庁とドイツ帝国指導部、ドイツ人とポーランド人とを架橋しようとしたボグダン・フォン・フッテン=チャプスキ伯爵、第二は、数百年ぶりのドイツ人教皇として2005年に着座し、第二ヴァティカン公会議以降の改革を再検討して、知性主義の批判を一身に浴びているベネディクトゥス一六世(ヨーゼフ・ラッツィンガー)、第三は、「ドイツ国民の神聖ローマ帝国」最後の大宰相(マインツ大司教)でありながら、「フランス人の皇帝」ナポレオン一世に感激してライン同盟の「首席司教侯」となった啓蒙主義知識人カール・テオドール・フォン・ダールベルク帝国男爵である。第一のフッテン=チャプスキに関しては、単著書『多民族国家プロイセンの夢-「青の国際派」とヨーロッパ秩序』(名古屋大学出版会、2009年)を得た。第二のラッツィンガーに関しては、口頭報告「近現代ドイツにおけるカトリック教会と多文化共生-教皇ベネディクトゥス一六世のキリスト教的ヨーロッパ論」を得たほか、査読付論文「教皇ベネディクトゥス一六世の闘争-キリスト教的ヨーロッパのための「二正面作戦」」(『ドイツ研究』所収)を得た。第三のダールベルクに関しては、現在史料収集を継続中で、徐々に成果をまとめつつある。
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