研究概要 |
日本列島の先史考古学では, 考古学的編年の基礎である土器型式に14C年代を与える研究が近年盛んに実施されているが, これまで植物遺体について体系的に適用した研究は少ない。植物遺体のより確かな年代を得た上で, 植物遺体から復元される人類の植物利用の傾向に関する研究と, 考古遺物から復元された人類の適応の手段(道具, 構築物等)に関する研究の成果を融合することが, 生態系史を復元するうえで必要である。 平成20年度は, 栃木県寺野東遺跡から出土した縄文時代後期〜晩期の木組遺構の14C年代測定を実施して, 寺野東遺跡の低地の遺構群の時間的変遷を明らかにし, ウイグルマッチングを実施して最も大規模な木組遺構であるSX-048の年代的位置づけを明確化した。これらを東京都下宅部遺跡の遺構群の年代と対比して, 関東平野における低地利用の時間的変遷を体系的に提示した。 一方, 千葉県沖の島遺跡から出土した縄文時代早期のアサ果実の分析も進めた。年代測定の結果, アサの果実が縄文時代早期初頭, 地質学的には完新世初頭に位置づけられることを確かめた。直接年代測定されたものとしては, 現時点で最古のアサであり, アサがいつ, どのように日本列島で利用されるようになったのかといった問題を考える上で貴重なデータを得ることができた。 このほか, 現在, 埼玉県データタメ遺跡の木組遺構や, 石川県中屋サワ遺跡の木組遺構と出土木材遺体, 愛知県千石遺跡の低湿地貯蔵穴出土の堅果類の分析を進めている。
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