研究概要 |
日本列島の先史考古学では,考古学的編年の基礎である土器型式に炭素14年代を与える研究が近年盛んに実施されているが,これまで植物遺体について体系的に適用した研究は少なかった。環境と人類活動との相関関係に関する考古学的研究を具体的に展開するためには,考古学的遺構群・遺物群の詳細な時間的位置づけについて,数値年代を用いて厳密に追求し,環境変遷史との時間的関係を分析することが必要不可欠である。 平成21年度は,愛知県宮西遺跡の土器付着物および炭化材(縄文時代草創期),東京都下宅部遺跡の土器付着植物遺体(縄文時代中期~後晩期),東京都下宅部遺跡のウルシ木材(縄文時代後期),愛知県寺部遺跡の低湿地貯蔵穴群(縄文時代後晩期),石川県中屋サワ遺跡の木材・木製品等(縄文時代晩期)の年代測定を進めた。また,基礎研究として行った,沖ノ島遺跡と国府関遺跡のエタノール溶液保存試料および乾燥試料の年代測定による比較自実験では,エタノール溶液が年代測定には影響を与えないことを確かめた。重要な植物遺体は腐敗・カビ発生防止のため,エタノール溶液中で保存されることも多いが,エタノールに含まれる炭素が測定に影響を与える可能性も指摘されてきたため,年代測定の対象から外されることも多かった。本研究によって,これらの植物遺体の年代測定が問題ないことを示し,植物遺体の年代測定研究の対象の拡大可能性を提示したことは,今後の研究を進展させていくうえでの基礎となった。
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