平成20年度は、おもにアメリカ合衆国イリノイ州シカゴとペンシルバニア州ピッツバーグにそれぞれ所蔵されている2隻の「ダハシュール船」について写真測量と観察を行った。これらの2隻については、いずれの場合も所蔵博物館からのリクエストにより、収められているガラスケースを外して調査を行うことができなかったため、シカゴではおもに左舷、ピッツバーグでは右舷の写真測量にとどまった。しかし、観察したところ、エジプトに所蔵されている2隻との差異が明らかになってきた。というのも、エジプトの2隻についてはいずれも舷側板の上面の木目が船体のカーブに沿っておらず、このことからこれまでの調査で、ヘロドトスが著したように部材を積み上げた後で貴重な木材を削って船体のカーブを作り出したと考えていた。しかしアメリカの2隻については船体のカーブと木目が並行しており、削って整形したとは考えにくい。かねてから、エジプトの2隻とアメリカの2隻はそれぞれ対になっていると言われてきたが、このことを示す根拠はこれまでに提示されていなかった。しかし単純なことであるが、木目の観察から少なくとも両ペアについては類似性が確認された。このことを踏まえて、平成21年度は、アメリカで撮影した2隻の写真をもとに3次元モデルを作成し、その構造をエジプトのものと比較、さらに時代は異なるが構造は類似しているといわれているクフ王の第1の船について写真測量を行い、ダハシュール船との比較、さらにエジプト各地に点在する造船についての壁画資料から、木材加工に始まる造船の各プロセスについても検討していこうと考えている。
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