昨年度、アメリカのシカゴとピッツバーグにそれぞれ1隻ずつ所蔵されている古代エジプトの木造船の実資料であるダハシュール船について行った調査では、多数の写真記録を得ることができた。これと、これまでの研究でデータを積み重ねてきたカイロ博物館に所蔵されている2隻との比較をまず行った。 その結果、これまで行ってきた各部材の寸法のデータを基にした分析は設計という部分について有効であるが、実際の組み立ての部分になると別の角度からのアプローチが必要と考えた。そこで、明治時代まで活躍していた、前述のダハシュール船と構造がよく似た日本の「ひらた船」を比較対象として、福岡県北九州地域に4隻所蔵されているものについて調査を行った。ひらた船については昭和になって船大工の手によって復元されたという情報を得たので、今後改めて福岡で聞き取り調査などを進めていこうと考えている。 これまでの研究を要約すると、寸法のデータを基にした分析からダハシュール船は4隻とも緻密に設計された船であることがわかり、このことはこれまでの既往研究において一部の学者から指摘されていた「所有者が王ではない」という考えに反論できる材料となった。また、実測図の比較を行うことで、使われた木材の数と形という点、さらに木目の観察から得られた、カイロ博物館の船は分厚い部材を配置したあとに削って造られたが、アメリカのものは削るのではなく木材を曲げて加工したものを組み合わせて造られているという点から、カイロ博物館所蔵の2隻と、アメリカに所蔵されている2隻がそれぞれ対である可能性も指摘された。 以上のことを踏まえて、2010年3月10日に「古代エジプトの木造船について」という題で発表を行った。
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