本年度は基礎的な資料収集と近年発見された重要な遺跡の踏査を実施した。まず、研究実施計画(1)で挙げた資料の補足調査では、四天王寺出土とされる経筒を手掛かりに文献資料に記された経塚造営地が聖地となっていたことから、当該資料の伝承の妥当性を認め、未確認遺跡の可能性を評価した。また、骨寺村荘園遺跡の一画にある慈恵塚の調査を受け、遺構の特徴から経塚の可能性が高いことを確認した。(2)の石塔の調査報告書の集成については、それぞれの調査によって情報の偏りが大きく、実際に現地で確認してみなければ必要な情報が得られないものも多い。特に石材に関する問題は調査者の視点にかかっており大きい。そこで、本研究では個々の石塔を網羅的に集めることはひとまず置き、石材産地との関わりがとらえられそうな地域に絞って進めることとした。関東においては、箱根伊豆、あるいは北関東の安山岩製品が対象としてふさわしい。(3)の経塚・石塔・墓地・寺社がどのように一体となって展開しているか、現地を踏査する課題については、平泉周辺と伊豆半島で実施した。また、(4)の近世墓地の調査は適宜おこなっているものの、問題点が聖地の形成・展開に絞られつつあることから、他のテーマを優先して調査の比重は小さくなっている。また、研究を進める中で加わった新たなテーマとして、石丁場の調査を実施している。これは石造物生産を考古学的に追究する上でもっとも直截的な遺跡であり、各地で研究が進みつつあることからも、この視点を抜きに当該研究を進める意味は薄いと考えたためである。 4年計画の3年目が終わったが、当初の計画よりも、大幅に技術史的な視点が加わり、新たな展開が見られてきた。さらに本研究を継続するためにも、発展的に継承する新たなテーマ設定をしたい。
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