研究概要 |
本研究は、地質調査や自然科学的手法、古文書の解析から北海道の小氷期を明らかにし、アイヌ人らが環境変化(自然災害を含)によってどのような影響を受けたかを明らかにするのが目的である。 平成21年度は北海道南部噴火湾沿岸の伊達市ポンマ遺跡において地質学的・考古学的発掘調査を実施。また千歳市の末広2遺跡でも調査を実施した。分析作業は、珪藻・火山灰・同位体・炭素年代測定を実施。古文書は目的に合ったものを選定し、気象や関連記述を抽出・整理した。なお、北海道との比較として、千島列島におけるアイヌ文化期の遺跡の立地と環境の関わりについても検討した。 以上の結果をとりまとめた結果,ポンマ遺跡では小氷期の影響による地形の変化(海岸線の後退や砂丘の形成)によって、農耕場を制限されていたことが明らかとなり、さらに1640年の駒ヶ岳噴火津波が同遺跡を襲い、さらに数百m内陸まで達していることを火山灰と津波堆積物の分布から明らかにした。また同遺跡の畠跡の上には1663年の有珠山噴火火山灰が厚く堆積し、同地域とその周辺域が17世紀中頃に度重なる自然災害によって壊滅的被害を受けたことを明確にした。古文書の記載もこの結果を裏付けた。千歳市末広2遺跡では、17世紀の寒冷化(小氷期)による凍上現象を確認した。さらに、同遺跡産貝殻の同位体分析によって、北海道で初めて17世紀中頃における数年間分の水温・降水量の季節変化を明らかにした。また、千島列島北~中部でアイヌ文化期に居住の断絶期が存在する原因として,小氷期および繰り返し起きた巨大地震津波によって自然環境と人々の生活環境が悪化したためであることを明らかにした。 以上のように、特に17世紀の北海道は小氷期と自然災害によって、自然と人々が多大な影響を受けたことについてのデータを収集することができた。これらの成果は学会で発表し、当館の印刷物に執筆した。
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