研究概要 |
本研究は、自然科学的手法や考古学的手法、古文書の解析から北海道の小氷期を明らかにし、アイヌ人らが環境変化(自然災害を含)によってどのような影響を受けたかを明らかにするのが目的である。 平成22年度は主に北海道南部噴火湾沿岸の伊達市ポンマ遺跡周辺および同中央部千歳市末広2遺跡周辺において地質学的調査を実施。分析作業は、珪藻・火山灰・同位体・炭素年代測定を実施した。 以上の結果,17世紀のポンマ遺跡出土貝類の同位体分析によって、17世紀中頃(特に冬期)の異常な寒さを原因とする殻の形成休止期や成長・成熟の遅れが明らかとなり、また、当時は寒流が優勢していた可能性を示すデータを得ることができた(現在の伊達市にはほとんどみられない寒流系貝類を貝塚中に複数確認)。さらに、1640年の駒ヶ岳噴火津波が同遺跡およびその周辺に広く分布していることが判明し、当時の人々に多大な影響を与えたことが明らかとなった。また、1663年Us-b火山灰直下(および1640年Ko-d火山灰の上位)に位置する貝塚の貝を用いたAMS年代測定値を元に、当該地域における17世紀中頃のΔR値を算出した。 千歳市末広2遺跡およびその周辺では、完新世の火山灰を採取・分析し、さらに既存の花粉分析結果も参考にすることで、前年に地層中に発見した寒冷化による凍上現象が17世紀(小氷期)に起きたものであることを明確なものとした。また、道東においても19世紀に同様な現象が起きていたことを発見した。 以上のように、17世紀と19世紀の北海道が、小氷期と自然災害によって多大な影響を受けたことを検証することができる基礎データを収集することができ、さらに、今後の発展研究に有効となるアイヌ時代の噴火湾におけるΔR値を得ることができた(AMSシンポジウムで賞を受賞)。これらの成果は学会等で発表し、当館の印刷物に執筆した。また、伊達市において市民向けシンポジウムも開催した。
|