本研究は、埴輪・須恵器・瓦、特にその生産遺跡出土一括資料の分析を通して各工房を復原し、比較の視座から古代工房の変遷過程を通時的に位置付けることを目的とする。古代国家形成期の主工業生産の発展史を、古代工房の変遷という今までにない視点で捉え直す試みである。 平成22年度は、本研究課題の最終年度にあたるため、3年間の分析の補足調査、及びそのまとめの作業を行った。本研究の分析によって、埴輪・須恵器・瓦工房の特質の違いが鮮明となった。すなわち、古墳時代後期の埴輪・須恵器工房は地域社会に密着して展開していた点が最大の特色だった。もちろん、畿内から周辺へという伝播の方向性が存在するのは確かだとしても、地域の側に受容の選択権があったとみる。一方で、7世紀以後の瓦生産などの主工業生産は国家規模で工房の整備が進められ、地域への波及の在り方も直接的だった。このように律令国家の成立と手工業生産工房の発展段階は非常に密接にリンクしている点を明らかにした点が本研究の最大の成果といえる。 なお、本研究の成果については、全体像を示すまでに成果を集約する作業が完成していないため、本研究の成果としては、古墳時代後期の関東の埴輪生産に集中して分析をまとめた。考古学研究・考古学雑誌などの主要査読誌への論文投稿を行うとともに、平成23年3月付で『北武蔵の埴輪生産と埼玉古墳群』と題して、122頁の科研費報告書を刊行してその成果を公表した。
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