本研究は、マレーシア・サラワク州における河川水害(河岸侵食および洪水氾濫)の実態について、現地調査をもとに詳細な基礎データを収集し、その上で災害予防あるいは減災のための対策可能性について考察するものである。具体的には、サラワク州の主要河川であるラジャン川を主たる事例として取り上げ、河川流域の地形的現象を広域的に観察すると同時に、現地住民からの聞き取りを行うことで、河岸侵食や洪水による被害の実態を解明する。一方、こうした災害への対応策としては、現地では、神話や伝承の次元での了解方法が存在していると同時に、集落移転や場当たり的護岸工事などの具体的対応策も見られる。ただし、いずれも現実の問題の根本的な解決に至っているわけではない。これとは別に、日本の伝統的河川改修工法を現地に移転する計画も、JICAスタッフなどから提案されているが、これらの国際協力の推進プロセスも本研究の観察対象である。日本の伝統工法がラオスに移転されたという過去の経緯も勘案しつつ、ラオスで成功した技術移転がマレーシアで成功するためには何が必要なのか、もし成功しないとすれば、何が障壁となっているのか、という点についても、関係者や各機関へのインタビューを通じで明らかにする。これらの調査は、現地の文化や社会の実態、あるいは災害認識・自然認識を考慮したうえで、国際協力あるいは地域間協力の進め方としてどのような方法がありうるかを考察する事例となる。
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