研究概要 |
平成21年度における研究は,中山間地域をはじめとした農村地域に居住する高齢者が有する社会的結節点の形成とその維持メカニズムを,旧村や集落を単位とする地域的な社会関係に着目してフィールドワークによる調査とそれをふまえた分析を行った。なお,本研究では「社会的結節点」を他者との社会関係が形成され維持される場所として定義する。 平成21年度研究では,広域合併を経て都市と農村の地域差が顕在化している政令指定都市の静岡市を対象とした。統計的指標から「限界集落」に分類される同市中山間地域の2集落を取り上げ,集落機能の維持水準と住民の社会的結節点との関係を考察した。対象集落では,静岡市中心部等に転出し居住する別居子により集落機能の多くが維持されており,人口減少と高齢化が集落機能や住民生活の「限界化」に直接結びついていないことが示された。転出した別居子が老親とともに村落行事の維持や自治会の活動に参加し,道掃除など生活道路の維持に寄与していることが確認できた。また,対象集落では集落構成世帯が月に1回の頻度で輪番により担当する「庚申講」が開かれており,高齢者やその別居子が顔を合わせることから「寄り合い」機能を有していた。これは伝統的な村落慣行が社会的結節点として維持され,住民相互の情報交換や情報収集が行われている例である。社会的結節点の維持に別居子が関与していることから,その限界化には一定の時間的猶予が存在する。平成21年度研究で明らかとなった事実は,高齢化や世帯数の減少のみを取り上げ,集落機能の限界化を論じてきた先行研究に新たな視点を提示しえたといえる。しかし,集落住民たる高齢者と別居子が形づくる社会的結節点の持続性に対しては,老親子間の空間的距離が有意に作用しており,別居子による居住地選択や日常生活の時空間行動に左右されるという不安定さも浮き彫りとなった。
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