本研究の目的は、コンヴァンシオン経済学の視点から、知識創造、集団学習、イノベーション促進といった集積メリットが生成する論理を明らかにすることである。今日、日本の産業集積地域の現状は厳しく、ほとんどの地域が縮小傾向にあり、従来型の集積利益(外部経済) を発揮しにくい状況にある。そうした中、産業集積に求められる重要な機能の一つは、地域の企業がイノベーションを継起しやすい制度的環境を提供することである。本研究は、フランスの制度経済学・コンヴァンシオン経済学に依拠しながら、地域発展のダイナミズムに迫ることを課題としている。 そのために、大きく二つの手続きで研究を進めている。すなわち、 (1) 方法論的枠組みを構築する理論的研究と、(2)地域の実態把握と経験的な地域の強みの源泉を探るという作業である。これらをそれぞれ並行して発展させつつ、論文執筆においては、理論と実証をすり合わせ相互にフィードバックさせていくことを試みている。 今年度は、(1)の理論的研究として、コンヴァンシオン経済学において展開されている知識論を産業集積研究に応用するための橋渡しとなる作業を行った。これは、認知と規範という視点から知識創造とイノベーションに関する考察のベースとなるような作業である。これを踏まえて、水野真彦とともに産業集積研究へのより具体的な応用を行っている。(2)の実証研究としては、まず6月にパリのファッション産業の調査を行った。パリのデザイナー・パタンナーを中心にヒアリングし、当該産業の実態把握を進めた。これは来年度以降、理論的フレームとの接続を試み、学術論文を執筆する際の基礎的資料となる。また、国内に関しては、住工混在問題の解決に向けた考察を行った。現在、日本の製造業地域は、この問題の早急な解決が求められており、その意味では、時宜を得た成果となった。
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