本年度は、災害常襲地域における土地台帳を閲覧し、災害に関わる記述(免租された期間やその理由となる被害など)の有無を確認する作業を中心に行った。具体的には、1935年に水害の被害を受けた京都市、明治から昭和初期に度々水害を受けた久御山町の木津川周辺地域、明治期・大正期に水害の被害を受けた金沢市を流れる犀川周辺地域における土地台帳に注目した。また、明治中期と昭和初期に地震とそれに伴う津波の被害を受けた岩手県宮古市田老の一部地域、1891年の濃尾地震で被害を受けた岐阜県本巣市の根尾谷断層周辺における土地台帳についても閲覧した。 その結果、まず水害被災地について、災害誌や行政的な記録から浸水被害が確認されていながら、免租の申請がされていない被災地があったことがわかった。一方、宮古市田老では、地震および津波で被災した地域が免租の対象となっていた。また、土地台帳における免租の記録から、当地域は地震や津波の他、過去に水害の被害を受けていたことが判明した。さらに、根尾谷断層周辺の土地台帳でも、地震被害によって免租の対象となった土地が数多く確認された。 これらの成果は、既存の研究では報告されていない内容であり、土地台帳に記された、近代日本の災害への対応の一例として公表した。 以上から、一部地域であることを考慮しなければならないものの、洪水あるいは地震によって免租された地域では、被災空間の復原と復旧期間の分析、それらと土地所有状況といった社会経済的問題との関係などの解明が可能となると判断された。今年度の成果を受け、次年度では災害及び地域を限定しつつ、災害復旧過程の解明に取り組みたい。
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