本研究の目的は、土地台帳に残された荒地免租の記録と地籍図とを照合し、(1)自然災害による被災空間を復原し、(2)その復興過程を明らかにすることであり、今年度の成果は下記の通りである。 1.水害に着目し、琵琶湖周辺と諏訪湖周辺を取り上げ被災地域を復原した。琵琶湖周辺では1896(明治29)年に大水害が発生しており、その時の被災地域について、湖西の下阪本地域を中心に土地台帳の荒地免租の記録と地籍図を用いて復原した。その結果、水害による被災地域、ならびに災害復旧期間がある程度把握された。その成果は人文地理学会大会にて発表した。 2.比較研究の対象として、諏訪湖周辺の水害に着目し、資料の収集を開始した。分析の途中であるが、明治期の水害によるとみられる多数の荒地免租地が確認された。 3.これまでの調査から、災害誌や行政的な記録によると水害の被害を受けたはずの地域が、荒地免租の対象となっていない場合が見受けられた。対象とした琵琶湖・諏訪湖の両水害でも、その傾向が認められた。その要因の解明にあたり、環境史的な視点を加味することとした。かつて水辺に暮らす人々は洪水のような水位変化を利用して、様々な生業を営んでいたことが近年明らかにされつつある。すなわち、人々が洪水を水位上昇の一つと捉え、それを上手く利用していたことが、免租の対象とされなかった要因の一つと推察される。そのような視点を加えることで、災害史研究を中心としつつ、より学際的な環境史の展開につながる可能性を見出したいと考える。 4.研究方法の事例報告として地震災害の事例をまとめ、京都歴史災害研究11号に公表した。
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