本研究はアラスカ州南西部、-ユッピック村落における伝統的住居の復元プロジェクトを事例に、伝統文化の今日的利用が村落コミュニティの維持・発展に果たす役割を検証することを目的としている。本年度は研究計画に基づき、ユッピック社会に関する先行研究、とりわけ伝統的住居に関する民族誌的研究をはじめとする文献渉猟を進めるともに、2009年3月にはアラスカ州での事前調査を2週間おこなった。これらの作業を通した成果は下記3点にまとめることが出来る。 (1) プロジェクト立案者であるJ氏によると、伝統的住居の復元作業に従事したのは彼を含めて4名の村住民ということだった。しかし別の村住民の話によると、村学校生徒たちも伝統的住居の復元作業に授業の一環として参加したこともあったという。以上の点から、復元作業それ自体は村住民の力だけで行われたことがわかった。 (2) 伝統的住居は村学校の野球場に復元されており、伝統的住居復元は村学校の了解なしには実現しなかった、と言える。加えて先述した復元作業への学校教育課程の一部として生徒が参加したことを踏まえると、村学校は伝統的住居復元に「教育」的価値を見いだしていることが伺える。 (3) プロジェクトは村落住民以外の人びとや外部機関からのサポートを得ている。たとえば、同プロジェクトに関するウェブサイトは、アンカレジ在住のJ氏の友人の手によるものである。またプロジェクトは地域住民主導の社会経済開発の推進を主たる目的として連邦政府が設置した地域組織であるCVRFから金銭的援助を得ている。以上の点から、プロジェクト全体を村落を越えたレベルに位置付けて検討する必要性を確認することが出来た。
|