平成20年4月から平成21年2月の現地調査の準備期間は、関連文献の収集・分析を実施することで地縁に基づく社会関係に関する考察を深め、『文化人類学事典』でコミュニティ労働の項目を担当し、コミュニティ労働の男女差と地縁に基づく結びつきに与える影響について、調査成果を含めた執筆を行うことでこれまでの成果の一端を提示した。また、地縁を考える際に重要な対象である儀礼を行う際、調査地で進行中の効率化とイスラーム化について、両者が実際には結びつく現象であるという仮説をもとに研究を進め、地縁に基づく結びつきも含めた研究成果を2月22目に南山大学で開催されたインドネシア・イスラームのダイナミズム・セミナーで口頭発表(「ジャワの儀礼変化にみるイスラーム意識の高まりと『効率化』:女性に焦点をあてて」)した。 3月には20日間インドネシア・中部ジャワ州において現地調査を実施した。調査地において各種コミュニティ活動の参与観察及び聞き取り調査を実施し、同時に現地の研究者との意見交換・討論等を通じて地縁に基づく社会関係に関するデータを収集した。その結果、以前は頻繁に行われていたコミュニティ内での手伝い活動の機会は減少し、それに代わって宗教講話会等のイスラームに基づく活動が活発化していることが明らかになった。その一方でイスラームに基づく活動の場もコミュニティ単位で行われていた手伝い活動と類似する部分があり、女性を中心に地縁に基づく結びつきが取り結ばれているという点もこれまでの地縁に基づく活動と同様である。こうした発見は、今後ジャワにおける地縁に基づく社会関係を考える際に重要な視点となりうる。現在進行中の変化とさらに歴史的な過程を含めることで、ジャワにおける地縁に基づく社会関係の特徴をさらに明確化していくことが今後の課題である。
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