本研究は、植民地経験に端を発する西欧近代化、近年のグローバル化に伴い著しい社会変化をみせる東アフリカにおいて、さまざまな理由で単身の状態にある「シングル」の存在に注目している。伝統的に結婚が重視されるアフリカ社会においてはマイノリティとされ、さして研究対象にもされてこなかった「シングル」であるが、実はどの社会にも存在する。彼/彼女らは社会のなかでいかに位置づけられ、人間関係のネットワークを築き生活戦術を展開しているのか、明らかにするものである。 本年度は、「シングル」という用語は日本語でどのように用いられているか、その用法の基礎研究に時間をさくことになった(大宅壮一文庫における文献調査)。日本語におけるカタカナの「シングル」と、ケニア、ウガンダという英語圏におけるsingleの使用方法を新聞などのメディアから分析継続中である。そのsingleが意味する社会的カテゴリーや社会的地位のありようを、とくにナイロビなどの都市部で暮らすエリートに注目した(成果の一部は23年度出版予定)。またケニアのメディア、新聞からのシングル、結婚に関する法の改正などの調査も実施。その結果、ケニアにおける教育レベルと職業の差異、政治経済事情とシングル女性との係わり、村落部との都市部との大きな差異の実態が明らかになってきた。さらに、日本語で本研究成果を発信する際にも当該社会と日本の「シングル」の状況との比較が非常に重要であることも明らかになった。そうすることで、東アフリカを舞台としつつも日本社会のシングル女性の生き方、社会経済、政治構造の係わりとの関連性を分析、その成果を適用する意義があると確信している。 ケニアは速度をまして変化している。とくに注目すべきは結婚に関するケニア法改正のプロポーザル、土地の相続、社会保障、女性の権利拡大等の近代国家政策との相関性も綿密に追ってみていく。
|